2024-03

2021年の短歌

秋にそなえる 「短歌人」2021年8月号 掲載歌

秋にそなえる 斎場の道の半ばの看板は不在の友の所在を示す 熱をもつ友のモバイルバッテリー返し忘れて形見となった 婚姻の延期の件は疫病にすべて任せておりますので 熱の出る予感の夜の指先できみの背骨の本...
2021年の短歌

「短歌人」2021年7月号 掲載歌

やわらかな記憶と共に思い出すキリンの舌はたしか灰色 あなたとの日々を下へとスワイプしコントロールとゼットで戻す ググらずにあなたに問うたマニョキンパ 錆びたシーソー夜に傾く 立ったままTシャツたたむ店員が大量生産...
2021年の短歌

「短歌人」2021年6月号 掲載歌

ブラックに香料入れる神経を疑うことから始めてみよう 空を見る少女の蛇行ひらひらと桜の軌道を描いて転ぶ ネクタイをなぜ締めるかと問われればいつか流れる血を止めるため 十年ぶりのカラマーゾフは父親が死なないま...
2021年の短歌

「短歌人」2021年5月号 掲載歌

コート着る日と着ない日の境目をグラデーションできみは彩る ぼく以外気づくことない出来物を分け目ずらしてぼくから隠す 開くはずと信じた人は諦めて反対のドアから降り 一人 駅前のパチンコ店の看板が二〇時以降の...
2021年の短歌

「短歌人」2021年4月号 掲載歌

お日さまを無駄にしないで何らかの布団を干せと君は命じる マラカスでメキシコ人の元カレが俺を打つ夢見たと不敵に 暖房の風に吹かれて振れているバンジージャンプ後の黒タイツ 誇張なくグッドナイから一分で聞こえる...
エッセイ

正解などない 「短歌人」2024年3月号より

 幼い頃から議論が好きだった。きっかけは小学六年のときのクラスメート森田君とのやりとりだ。「世紀末の詩」という当時(1998年)放送されていたテレビドラマに影響された僕が、ある日の授業中に後ろの席の森田君に「愛とは何か?」と書いた紙を渡し...
エッセイ

歌と夕食 「短歌人」2023年4月号より

 料理をするようになった。昨年九月の引っ越しで、妻よりも私の方が早く帰宅することが多くなり夕食を作る機会が増えたからだ。 レシピの表示されたスマホを握りしめてスーパーへ行き、材料欄に記されている食材を一つずつカゴに入れていく。店内を行った...
エッセイ

<分からない>を歌に 「短歌人」2021年12号より

 昨年の八月に友人が亡くなった。夜中にビル建設中の工事現場に忍び込み、高さ四十メートルのタワークレーンの先端まで自らよじ登った末、落ちて死んだ。  彼と最後に言葉を交わしたのは僕だ。酒を飲み、駅前で「またね」と言い合って別れ、次に会...
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